金の卵 連続ブログ小説 №37

金の卵 連続ブログ小説 №37

 

由美の家は手打ちうどんが売り物の食堂、作り方は小麦粉と塩を水で混ぜる処までは同じだが、足で踏まずに手回しのローラーを何度も通して生地を作り、ローラーをカット用の器具に変えるとうどんが出てくる。

うどんの太さは器具を変えると三種類の麺が出来る。

しかし佐藤家では昔の作り方である。

食べ方は三陸沖で取れた煮干のだし、いろりに掛けた大きな鉄鍋、鍋の中には季節の野菜と豚肉が入った煮込みうどんである。

うどんだしの美味しさうどんの歯ごたえ由美は遠慮しないでいただいた。

豚肉は自分の家で育てた豚を売りに出し、一部分を肉屋さんに保管してもらい、必要な時出して貰うと言う話に成っているのである。

 夕食が済んで清三は母に転職の話をした。

母は若い内に何でも経験したらいい、失敗してもやり直す事が出来るから思ったようにしたらいい、只、人様には迷惑をかけない、人にうしろ指を指される様な事だけは決してしてはならない、父ちゃんには母さんが話しておくから心配しなくてもいい。

母は反対すると思って居ただけに少し気抜けして寂しさを感じた。

父は棚田で米作りの農業では将来体力的にも無理に成る事が解っているだけに、農協の指導員の勧めで、洋梨やサクランボの栽培を兄と視察に出かけて留守であった。

もし、父が居たら何と叱っただろうかと、考えて居る自分に一抹の不安を感じた。

転職を決断しながら、不安が有るのは解るが、既に麗子との約束は破棄できない状態になっている。

これからは、麗子と言う女王蜂の働き蜂に成りこの身体を捧げる覚悟でなければならないと、母と笑顔で話している由美の横顔を見ながら心の中で誓うのであった。

                    つづく