金の卵 連続ブログ小説 №51
金の卵 連続ブログ小説 №51
麗子はコーヒーカップを持ち二人に話しかけた。
「何故、姥塚組に来たの」
「ハイ、それは若社長が前の会社の先輩だったのでお願いしてお世話になりました」
「前の会社って何の会社なの」
「ハイ、自動車修理工場です」
「何で、辞めたの」と麗子の言葉に俯いて返事を考えている様子だった。
二人は、思い出すように交替しながら話し出した。
就職列車で東京に来て、鮫洲の自動車修理工場に就職した。
工場の二階にある寮に二十人程の独身男性が暮していた。
部屋は二段ベッドで机が二つ定時制高校に通う為の勉強机が備えてあった。
その会社の先輩に仕事を教えて貰い整備士を目指して勉強していた。
先輩の仕事に憧れ早く整備士に成りたいと思いながら、見習いが始まった。
始めは、工具の名前、使い方、部品洗浄等作業服を油だらけにして働いた。
先輩はエンジンを分解しエンジンブロックのシリンダーをボーリングすると言う。
オーバーサイズのピストンをマイクロメーターで計りながらボーリングしていく、そして、
ホーニングする。クランクシャフトとカムシャフトのメタル合わせ、吸排気バルブの摺り合わせ何を見ても憧れました。
其の話を聞いていた麗子と清三は何の事かさっぱり理解できずにいたが麗子は話を挟んだ
「そんなに、憧れたのなら何故辞めたの」
すると二人は又話し出した。
松ちゃんの話に竹ちゃんが相槌をしながら話が進む。
先輩の話によると、此れからは、エンジンオーバーホールは専門工場で作業する時代が来る。シリンダーもライナーに替わり、ボーリングの必要が無くなり、メタル合わせもラインボウリングマシーンで精密な仕上がりで、専門工場で組み立てる。
修理工は車に取り付けるだけ、エンジンの調整には多少の技術はいるが、やがて、修理工は、部品交換工になると先輩は語った。
二級ガソリン整備士試験に合格しても余り優遇されなかった。
賃金の待遇は運転手より低かった。
それに比べ、アメリカはエンジニアとして優遇され、ドライバーより優遇されていると言う話を聞かされてから、転職も考えるようになっていた。
ある日、初めてのお客が他店で此処には腕の良い修理工が居ると聞いて尋ねて来た。
車は外車スチードベーカーでフロントグリルの中央に飛行機の先端部に似たデザインのグリルだった。
先輩はボンネットを開け「最近修理されましたね」と尋ねた。
「そうですよ、プラグやらポイントなど見てもらってからなんだよ」
「何故その工場に行かないのですか」
「勿論行きましたよ、でも駄目だった」
「ハイ、解りました、点火順序が違います」とコードを差し替えただけで直った。
先輩の話に寄ると余り見かけない六気筒エンジン、其れにしても勉強不足だと言う。
其の外車に乗ってきたのが、姥塚組の親分、先輩を一目で気に入り私の運転手になってくれないか、と話を持ち掛けてきた。
姥塚組は土建業の看板を上げる為、人材探しに奔走していた。
好条件を出された先輩は気持ちが揺らいだ、例え堅気の仕事とは故、所詮元はヤクザである事が気に成っていたが、お世話に成る事にした。
つづく