金の卵 連続ブログ小説 №31
金の卵 連続ブログ小説 №31
「せいさん その返事乗る気が無いみたいに聞こえる」と口を尖らせて大きな声で言った。
清三は「そんな事無いよ」と返事しながら初めて見た由美の不機嫌な顔に暫らく言葉が出なかった。
由美も黙って口を尖らせて清三を睨んでいるが、その仕草は甘えている様にも見えた。
清三は小さな声で今の会社辞めようと思っていると話し出した。
由美は即座に何で辞めるの、何か有ったの、辞めて何処か働き口有るの、と矢継ぎ早の言葉に清三は手を出して、ちょっと待って、話すからと由美を静めた。
清三は麗子との関係には一切触れず、水商売の修行をして自分の店が持てる様に指導してくれると言うので、話に乗ろうと思っている事を話し始めた。
「その話何処かのママさんからでしょう」
由美は今までより増して声が大きくなり力も入ってきた。
「どうせ、若いツバメにしてコキ使い店の経営は無理と捨てられるのが目に見えている」
由美は、力を入れて大きな声を出しているのに気が付くと笑顔に戻った。
「そんな、相談聞きたくない、女狐に騙されて転落して行くのは決まっている、だから私は反対です」と言って清三を睨んだ。
手に、職を持つ事は将来食いはぐれの無い道があるのに、それを、捨てて新しい道に行くと言うが、今の仕事が嫌いになった訳でもない、ただ麗子の誘いに乗ってしまった様にも感じられた。
清三は将来店主になる夢を見始めている。夢が実現したら又遊びに来てもいいか由美に聞いた。
水商売で出世した「せいさん」の姿は見たくないから来て欲しくないと答えた。
起業に失配しおちぶれてネオンの海原で方向を見失成ったら何時でも逢いに来て。
此処は、引っ越すけど私は三ノ輪の街が好きだから、この街の何処かで灯台の様に光り輝いているから、その時は逢っても良いよ、何時の事か解らないが私が結婚していても逢っても良いよと、冷静で静かな会話に成っていた由美だった。
厨房からの声に由美はカウンターにタヌキうどんを取りに行き、せいさんの前に置いた。
丼の中にはうどんの上に揚げ玉が一面に入っている、ほうれん草のおしたし、鳴門かまぼこが薄く切って浮かんでいる。
清三の夜食は何時もタヌキうどんと決めていた。
「戴きます」
「どうぞ、ゆっくりして下さい」と返答して、斜め前の椅子に掛けて清三を見ている。
今晩が清三の見納めかも知れないと思いしみじみ見詰めてしまった。
つづく