金の卵 連続ブログ小説 №29

金の卵 連続ブログ小説 №29

 

 葉山からの帰り車の中で麗子は過去を曝け出したが、上野近くになると今日はこれまでと身の上話を止めて暫らく無言でハンドルを握っていた。

上野駅前に車を止めて「気をつけて帰ってね、電話してね」

「有難う御座いました」と会釈をして手を振った。

車のテールランプが小さくなる迄見詰めて、やがて闇の中に消えて行った。

清三は始めての経験で心うきうきしていたが、その反面心の隅には此れからの人生を変える事に成るかも知れない決断に躊躇していた。

麗子の誘いに答えるにはいろいろ解決しなければ成らない問題が山積していた。

 清三は迷いに迷ったので、友達に相談しようと六郷迄出かけた。

多摩川六郷大橋近くの堤防下に競走馬の厩舎があり其処で働いていた。

彼は同じ就職集団列車に乗って上京した同級生である。

彼は競馬の騎手を希望して厩舎で働いているので会いに行った。

五年振りの再会にお国言葉が所々に飛び出すが、ぎこちない会話になってしまう。

彼は競馬騎士を目指していたが、体格が良くなって体重が増えてしまい騎士の夢を諦めると言う。

競馬騎手は体重が軽ければナマリを腰に巻いて走れるが、重いのは如何にもならないと言うので、転職を考えて居ると逆に相談された。

彼は厩舎を辞め自衛隊に志願すると決めて退職願を書いたが未だ提出してないと言っていたが決心は固い様子だった。    

 彼の進路はまず自衛隊に志願して、盲腸と免許を取り進路を決めると言う。

今まで五年間経験した事は決して無駄には成らないと信じて新しい道を進むと言っていた。

清三は板金工も半人前ではあるが優秀な方である。

手に職を持つことは、食い逸れが無いと言われているが、好きな物をすきな時、腹一杯食べられると言う訳にもいかないのは事実であった。

二人は土手に座り河川敷で楽しそうに家族で遊んでいる姿を見て、将来同じ様な生活ができるのだろうかと不安を感じていた。

暫らくすると、彼は仕事に戻ると言う、厩舎の仕事では、殆ど休みは取れず馬と一緒である。

再会を約束して別れた。

土手道を将来の事を考えながら駅へ向かった。

清三は麗子の事が忘れられず、駅前の公衆電話ボックスに入りダイヤルを回した。

清三は呼びだし音を暫らく聞いていたが諦めて受話器を置いた。

この時間は家に居ると聞いていたのに今日は留守らしいので諦めた。

                   つづく