金の卵 連続ブログ小説 №32

 

金の卵 連続ブログ小説 №32 

 

「どうしたの、そんな、じろじろ、見られたら食べ難いよ」

「あ・あ、御免、つい食べかたに見惚れてしまって、御免なさい」

由美は、俯いて食べ終わるのを待っていると涙が落ちた。

エプロンで涙を拭いて、せいさんを見ると何故か涙が出てくる。

それに、気が付いた、せいさんはうどんの熱さも手伝ってか赤い顔をして目が潤んでいた。

暫らく、無言の二人は見詰め合って会話は無かったがお互い、心の中では同じ事を考えていたに違いない。

何故、一言も好きですの言葉が出なかったのだろう、ただ気の会ったよき友人だけの付き合いだったのだろうか。

其れなのに、暫らく逢えない、いや一生逢えないかも知れない、別れが辛い。

「御馳走さま」とテーブルの上にうどん代三十五円を置いて出口に向かった。

有難う御座いました、と頭を下げて、後を追うように外へ出た。

「せいさん、元気でね、体に気をつけてね、バイバイ」と笑顔で手を振った。

清三は時々振り返り手を振る、柔道で鍛えた逞しい身体が小さく見えた。

由美は見えなくなった方角を暫らく眺めてから店に入った。

                   つづく