金の卵 連続ブログ小説 №34
金の卵 連続ブログ小説 №34
清三は由美を誘った。
由美はもう逢えないかと思っていたのに、帰郷に誘ってくれて心から喜んだ。
由美にしてみれば、初めての東北旅行それも清三と一緒いろいろな事を想像して当日まで
夜も余り眠れず、過ごす毎日だった。
上野駅から夜行列車に乗り、車中の人となる。
都会のビルの明かりが見えなくなる頃、急に眠気が襲ってきた、清三の肩に寄り添い眠りに入った。
清三は寝顔を見て、一つ年上ながらその寝顔は幼い子供の様に感じられた。
思わず由美の肩に手を回し自分の胸に引き寄せた。
それでも由美は深い眠りの中、何の抵抗もなく胸によりそっていた。
清三は由美と麗子を重複させて複雑な思いで、目が冴えて眠れなかった。
列車の走行音はレールの継ぎ目が同じ間隔でリズムを刻んでいる。
車窓から見えるのは暗闇だけ、時々踏み切りの音が聞こえ赤い光りが見える事で民家の少ない地帯を走っているのが解る。
列車が駅に停車し発車する時、連結器の音と振動に目が醒める。
眠れないと思っていても、寝ていた事にきづいたが、又浅い眠りながら時は過ぎた。
気が付くと夜明け前、車窓からは明るい空、墨絵の様な稜線がはっきりと見える。
しかし、逆光の為、山の木々は見えない。
トンネルを抜けると平地に出る、朝日に照らされた町並みと駅が見えてきた。
この駅を通過すると次の駅が下車駅、我が故郷である。
駅に着くと、本家の従兄弟が車で迎えに来てくれた。
本家は昔から御大臣で田舎には珍しい自家用乗用車を持っていた。
車は国産で「オオタ」と言う八百CCクラスセダンだった。
駅から四十分程、山際に沿って走ると清三の生家である。
道路に面した家は庭が広く、裏は小高い山に続いていて、道路向こうは畑で畑の端は川が流れている。
何処にでもある山村風景だが、雪深い為か屋根の傾斜が大きく感じた。
家の前まで来ると母が庭に出て待っていた。
車から降りると「ただいま」と清三は由美と母の前に立ってお辞儀をした。
「良男さん、ご足労掛けて悪かったね、ありがとう」と声を掛けると良男は
「叔母さん、俺は家に帰って出直して来るから」と帰って行った。
つづく