金の卵 連続ブログ小説 №11
金の卵 連続ブログ小説 №11
次は何時逢う相談も無しに二人は帰途に着いた。
由美は豊島園での気持ちの変化が清三に対して素直になれないと感じていた。
其れには豊家の家訓が一つの理由になっていた。
家訓といっても額に達筆で書かれた立派なものでなく口伝えで守られてきた言葉だった。
幾つもある言葉の中「人に好かれて好きになれ、好きになっても惚れてはならぬ」
店の看板娘は愛嬌が一番、店の将来が掛かっている事は重々わかっているだけに由美は苦しんだ。
清三が毎日夕食に来るのが待ち遠しくソワソワしている態度に母姉共にきづいていた。
清三が東京に来て、高校に入学した頃の体格は貧弱で元気が無かったが、無口で大人しく仕事と勉強を両立させながらクラブ活動もするがんばり屋さんだった。
入学時卓球部に入ったが一学期で辞め、二学期から柔道部に入り身体を鍛えた。
それが、功を奏したのか身長も伸び体重も増えて見違える程の身体になった。
胸毛と体格は父親譲り、父親似の体格になるきっかけが柔道だったと言える。
父親は村でも評判の男前、戦地より復員して農業をしていた。
戦前も農業をしていたが、小作者だったので豊かな生活は出来なかったが、戦後農地改革により、小作者が政府から安く畑地を買うか、地主に借地料を支払って農業が出来た。
清三は父親に姿格好、動作、顔形、笑顔まで瓜二つに成っていた。
しかし、故郷には一度も帰っていないので清三の成長した立派になった体格を家族の誰も 見ていない。清三の働く三ノ輪板金は順調に成長していた。
会社の会議で清三はある提案をした。
此れからの家電組み立て部品は金属からプラスチックの時代が必ず来るから金属プレス機をプラスチック成型機に変える事も考え無ければならないと言う。
確かに清三の言うとおりである。
注文が少なくなったブリキ製品の湯たんぽ・金魚等会社経営の重荷になっているのは事実である。しかし、設備投資を考えると大博打である。
そこで、親会社の山本さんに相談したところ、親会社も樹脂部品に変える企画が進んでいると言う返事が来た。
話はうまくいき、機械は親会社が貸与すると言う事で話がまとまった。
清三の意見で会社が急成長の足がかりになった。
つづく