金の卵 連続ブログ小説 №10

金の卵 連続ブログ小説 №10

 

由美は高校を卒業し店の手伝いを始めた。

清三は高校三年生になったが、成績はだんだん下がっていった。

その反面、小さな体が大きくなり男らしさが増して来た。

その原因の一つに学割定食も手助けをしていたかも知れない。

清三の定食には他の人より多めに盛り付けをしていた。

丼に盛る御飯を押し込み上は普通に盛り付ける、即ち忍者盛りと呼んでいた。

身長も十センチ伸び筋肉も付き、顔も男前になり、上京した頃と似てもにつかぬ変貌振りに周囲の人たちは驚いていた。

 二人はアベックで遊びに行く事になった。

行く先は豊島園、由美は小学校生の時遠足で行った記憶があった。

池袋から西武線練馬で乗り換えて豊島園が終点で駅前が豊島園遊園地である。

入園してから園内を散歩しながら二人は楽しい会話がつづいた。

野外ステージでブラスバンドの演奏があり満席の状態だった。

人気の訳は売り出し中の新人指揮者朝比奈武志が目当てである。

演奏が始まった

東京音頭である、由美は初めて生演奏を聞いたその迫力には驚いた。

清三も東京に三年、聞いた事のある曲に首を振りながら聞き惚れていた。

東京音頭の演奏が終わると二人は歩き出した。

目的はウオーターシュートである。

船に乗り動き出すと由美は怖いと言いながら、腕にしがみつき甘えて見せた。

清三にして見れば始めての体験、思わず顔が綻んだ。

由美は清三の太い腕、開襟シャツから少し出ている胸毛に動揺した。

今まで弟のように思っていたが、この瞬間から気持ちが変わるのを感じた由美だった。

 ボートが斜面を滑り池に着水すると同時に舳先に立っていた船頭さんがジャンプした。

そして、舳先に飛び降りてポーズを取った。

ウオーターシュートの見所は急斜面を滑り降りるボートよりも、船頭さんの技に魅力があった。

船頭さんは長い竹竿で船を操り静かに降り場に寄せた。

船から降りる時、清三は由美に手を差し伸べた、由美はそれに応えて確りと清三の手を掴んだ。

この時が始めての握手である。

清三は胸のときめきを感じながら由美を引き寄せた、由美も同じ気持ちで躊躇した。

転びそうになった由美の肩を確りと受け止めた清三の逞しい腕力に魅せられてしまった。

その時から会話が減り、ぎこちない会話がつづいた。

                    つづく