金の卵 連続ブログ小説 №45

金の卵 連続ブログ小説 №45

 

皆で東京音頭を手拍子で歌っている時も、由美の姿が見えないのが気に成っていた。

「清三元気が無いな、どうした」と藤田が大きな声を掛けた。

「少し酔ったみたいです」と呂律が回らなくなってきたのを自分で感じた。

「清三何が可笑しい、もっと飲め」と左手に徳利右手に杯を持って来て渡し酌をした。

杯を一気に飲み干した清三は元気になり、笑顔で酌をして皆のご機嫌を伺った。

誰が歌い出したのか、農兵節を手拍子と食器を箸で叩きながら何回も歌った。

富士の白雪ノーエ 富士の白雪ノーエ……富士のサイサイ白雪朝日で解ける

この歌は宴会のお開きの前に何故か歌うのである。

 宴会も終わり解散する事になり、改めて挨拶をして店を出た。

何時もなら、先輩に二次会に誘われたが其の様子も無く帰っていった。

清三は一人になり、今夜が最後のアパートに向かいながら、先輩を思い出していた。

先輩は男なら何でも経験しなければ世渡りは出来ないが、溺れたら駄目だと何時も聞かされていた事を思い出しながらほろ酔い気分で家路に向かった。

清三は先輩のお供をした中で一番強烈なのはトルコ風呂だった事をふと思い出しながら歩いていた。

トルコ風呂の店に入る前に先輩に注意しなければならない事をいくつか聞かされた。

其の一つに、中に入ったら、何のサービスも断る事、それでないとお金を幾ら取られるか解らないと言う。

入り口で入場券を買って中に入っていった。

「いらっしゃいませ」とお色気たっぷりの声を出して迎えてくれた。

左右の壁には艶かしい写真がずらりと貼ってあった。

「ご指名は御座いますか」の問いに、「ありません」と答えたのは、先輩の指導で指名料を取られるから、写真を見てお気に入りでも指名してはいけないと言われていた。

案内された個室、ドアーを開けて入ると白のバスローブを着た色の白い美人に見える女性が控えていた。

                     つづく