金の卵 連続ブログ小説 №43

 

金の卵 連続ブログ小説 №43

 

金田商事ビルの裏通りに二階屋で十部屋あるアパートの一室に住む事になった。

部屋のドアーを開けると半畳程の土間に三畳程の板の間に流しがあり、襖戸を開けると四畳半の畳部屋が有り、窓を開けると、隣の壁見ただけで風通しの悪そうな物件であった。

 此れから、再出発贅沢は言って居られない、このアパートはハーレムの寮として麗子が手配したので我慢しなければならないと肝に命じていた。

電気、ガス、水道の手続きも済み、何時でも住める状態であった。

会社に戻り、皆に明日退社することを告げた。

清三、今夜皆で送別会をするが都合はどうなのか先輩の藤田が声をかけた。

「ハイ、宜しくお願いします」と会釈して先輩に寂しそうな視線を向け、無言で頭を下げ暫らく俯いていた。

「ゆたか食堂に予約してあるので一杯飲みに行こう」

今朝別れて今度何時逢えるのか気になっていたが、まさか今晩逢えるとは思っても見なかっただけに、嬉しい気持ちが込み上げ顔の綻びを隠し切れなかった。

ゆたか食堂に集合する時間の約束をして解散したが、社長は得意先の接待で出席できない事を聞かされ寂しい気持ちになったのは、退社の件で気を悪くされているのでは無いかと思い、今までお世話に成りながら、うしろめたさを感じていた。

 ゆたか食堂の座敷に宴の支度がしてあり、後は皆が来るだけである。

何時も清三はテーブル席で、座敷の間は障子戸が閉めてあり入った事は無かった。

全員揃い、送別会の始まりである。

先輩藤田が挨拶をして、清三に変わり簡単に世話に成った御礼を述べた。

乾杯の音頭は梅田が取った。

全員立った儘ビールを飲み干し「ごくろうさま」で座に着いた。

宴もたけなわに成りアルコールがまわり昔話が飛びだした。

                    つづく