金の卵 連続ブログ小説 №40

金の卵 連続ブログ小説 №40

 

 田舎の大自然に浸かり時間の経つのも忘れて遊んでいたが帰る時間が迫ってきた。

夜行で来て一泊そして、夜行で帰るのである。

列車に乗り込み二等車の自由席を確保した、この列車は集団就職列車と同じ時刻に発車して上野駅が終点である。

集団就職列車の時は蒸気機関車だったが、今は電化されて電気機関車が客車を牽引している為トンネル通過時車内に煙の臭いが漂わず快適な車内であった。

しかし、昔を思い出すと其の臭いが恋しくも思われた。

清三と由美の向かい座席には、身出し並の整った美しい女性が二人座っている。

電化されても列車の乗り心地は余り変わってはいないように感じた。

二人は旅の疲れが出たのか、肩を寄せ合っている内に寝ってしまうが、暫らくして清三が魘されたのか、大きな声を出して、前席にいる女性を蹴ってしまった。

女性の「痛い」と言う声に他の乗客も目を覚ましたらしく車内が騒がしくなってきた、清三は、「ごめんなさい」と小さな声で謝りながら何度もお辞儀をしている、由美もその姿を見てお辞儀を繰り返していた。

 清三と由美は目を塞ぎ寝る素振りをしていたが寝付かれなかった。

夜が明けて車窓の景色が田園風景から都会の町並みに変わった頃列車は大宮駅に到着し、前席の乗客が降りる支度を始める。

「ああ、眠たい」と呟きながら清三を睨むように振り返ってデッキに向かった。

皮制のボストンバックを持って歩くうしろ姿はスタイルも良く姿が見えなく成るまで見詰めていたが、この女性が後に清三に係わって来るとは知る術も無かった。

列車が動き出しホームを見ると、女性も此方を見ている、一瞬視線が合ったが女性は微笑みを浮かべて首を傾けた。

女性の視線が清三の視線と交わった事に気が付き由美はあの人誰、知っている人、と問い詰めるが、清三の反応から見知らぬ乗客に過ぎないことを察するのであった。

 「せいさん、あんなに魘されていたけど、悪い夢でも見ていたの、どんな夢」

「いや」と首を傾げ「別に夢など見なかったよ」と答えるしかなかった。

実際は夢を見たのである。

                    つづく