金の卵 連続ブログ小説 №27

金の卵 連続ブログ小説 №27 

 

「礼子お客さんに此方へ来て貰いなさい」

「はい」と返事をして洋間の応接室に案内した。

苦い思い出のある和式の客間と違い、洋式らしい天井や壁板立派な本皮製の応接セット

そして置物全てが御大臣と思われるインテリアだった。

「金田商事の金田です」と名刺を渡すと、受け取りながら深々と頭を下げた。

「貴君あの時は悪かった勘弁してくれ」と椅子から降りて土下座した。

当時安田は二度の土地成金一度目は百姓をしたが、二度目は生活から性格まで変わってしまった。

周囲からチヤホヤされて町内では世話役を押し付けられ天狗になって居たことに気が着いた時は手遅れだったと反省と愚痴の話のあと手を突いて貴を見詰めて声を掛けた。

「あの時は本当に悪かった、貴君に傷付けた事は忘れた事はなかった。」

「小父さん、もういいですよ、手を上げて下さい」

そして、貴はあの悔しさをバネにがんばれたのだから恨んでなんかいませんよ、その時は、孤児院生何処の馬の骨か解らないのは事実だったのですからと笑顔を作って話した。

 暫らくすると、礼子の案内で金田商事の社員と債権者が部屋に入って来た。

ご主人に挨拶の後、社員は言われた通りお持ちしましたと黒革のボストンバックを社長の傍らに置いた。

社員の横に債権者が座り商談が始まった。

金田社長が口火を切った。

「安田さん、これがお約束のお金です」とバックから出した札束をテーブルに積み上げて札束を両手で安田の前に押し出した。

安田は確認後債権者の前に金田と同じ様に両手で押し出した。

「ご迷惑をお掛けしました。申し訳ございませんでした。」

債権者は金額を確認後、連帯保証人の記入した借用書を安田に返して債務の無い事の報告を済まして有難う御座いますと頭を下げた。

安田は借用書を金田社長に確認してもらい納得すると、石神井と葉山の不動産登記書他取引に必要な書類一式を金田社長に渡した。

金田社長は一通り目をとうして社員に渡した、社員は念入りに確認して間違い無い事を社長に報告して書類をカバンに入れた。

では社長行って来ますと債権者と席をたった。

不動産の取引が成立すると直ちに法務省に登記に行くのが慣例だった。

残った社長はもう一つの借金の件で相談を受けていた。

安田家の負債は母屋を担保に銀行融資を受けても返済の事を考えると無理なことである。

しかし、この儘では利息が増えて取り返しの付かない事態に成るのは目に見えている。

其処で、金田は一案を出した。

現在の屋敷は三百坪その土地を分筆して手放すのが最善で有ると説明した。

屋敷内の家庭菜園をしている百五拾坪を金田商事で買い取り、負債を無くす事でこれ以上傷を大きくしない事が必要な事であると説明した。

安田は娘婿を信用し連帯保証人に成りこんな事態に成るとは考えても見なかった事を反省している。

娘婿は安田家だけで無く他にも迷惑を掛けているらしく行方不明になっている。

どんな事情が有っても妻子を見捨てて蒸発するとは酷い夫である。

不幸中の幸いは連帯保証人に礼子の名前が無かった事だった。

安田は金田の算段に任せることにして後日取引の約束をした。

貴君とこんな事で再会するとは夢にも思わなかった安田は情けなさを痛感した。

礼子の話は一言も出ずじまい、お互い意識して話題にしなかった。

                    つづく