金の卵 連続ブログ小説 №26

金の卵 連続ブログ小説 №26

 

 橘の話によると、安田家は娘婿の連帯保証人になり負債を背負う羽目になったと言う。

娘婿は結婚してから業績もうなぎ登り、業界では知らぬ者が居ないくらい有名な人物と成っていたが、先物取引に手を出し大穴をあけてしまったが、何時かは取り戻せると思い次第に深みに入っていった。

仲間の取引も手形になり、信用も薄れて行く中で銀行に融資話も敬遠される様になり、遂に高利金融で手形を決済して生き伸びて居たが長続き出来ず、銀行取引停止、事実上倒産であった。

しかし、その負債は連帯保証人の安田家に負い被さってきた。

安田家は石神井と葉山の家を手放し何とか生き伸び様とするが、それでも足りず、安田邸も処分しないと収まらないとこまで追い込まれていた。

「貴君、何とか成らないか、嫌な思いでも有るだろうが買い得だよ」と橘が薦める。

 貴は橘が薦めるままに詳しい内容を聞いた。

担保物権はあと五日で競売物件として公示されると言うので、競売価格の相場に見合う金額で安田家より買取る事にしたが、全額返済は出来ず残額は後回しする事にした。

貴は安田家に向かった、子供の頃遊んだ覚えは有るがはっきりと思い出せない。

この谷原地区で覚えているのは、大きな球形のガスタンクをはっきり覚えているが数の増えているのには驚いた。

農地の面影も無く住宅地と言うより街である。

集合住宅に個建の街並に広い敷地に純日本住宅の立派な家が見えてきた、此処が安田家とすぐに解った。

昔は野原の一軒家だったが変われば換わるものである。

安田家の前に止まり周囲を見渡すと塀の外から見えなかった植木が育ち豪華な屋敷を引き立てていた。

格子戸付の数奇屋作り上には欄間用の板が嵌め込んである、呼び出しボタンを押すと玄関が開き、「どうぞお入り下さい」の声に聞き覚えがある、礼子である。

挨拶をして玄関に入る、礼子は貴と気着か無かったが、「どうぞ、こちらえ」と顔を見た。

二人の視線は暫らく合った儘だった。

そして、礼子の目には涙が滲んできた。

礼子の足元に双子と思われる女の子が来て両足にかじりつく、「あっちへ行きなさい」の声に二人は母親の顔を見て笑っている笑顔が、礼子の子供の頃に良く似ていた。

                    つづく