金の卵 連続ブログ小説 №25

金の卵 連続ブログ小説 №25

 

「ありがとうございます」と受け取り中から取り出すと豪華な印鑑ケース開けて見ると、象牙の印鑑、見ると金田貴の字がどのように彫ってあるのか一瞬解らない実印独特の字体を暫らく見詰めていた。

「ありがとうございます」貴は静かに頭をさげた。

橘は大きな封筒を貴の前に出して、中から書類を出して説明を始めた。

孤児院から引き取る時、親権代理人として裁判所から任命を受けていた。

貴が成人したので法律上では親権が無くなり一人前の大人の仲間入りである。

封筒から出された書類は貴が父の遺産相続人である証明や土地の謄本等何枚もあった。

「貴君、今日、此れから区役所に行き印鑑証明の手続きをとって来なさい」

「はい、解りました」

貴は区役所には行きなれているが、自分の事で行くのは始めてである。

区役所に印鑑証明書の申請を出してから暫らくして、役所の人が橘の家を訪ね貴本人であること確認して帰っていった。

貴は晴れて印鑑証明書が取れる事に成り、大人の仲間入りした事を実感した。

 橘の世話で起業することになった。

申請するのに書類が多すぎて手に負えないので司法書士にお願いする事にして事務所は橘のところに置き、金融業と不動産業の営業許可申請することになった。

貴は橘の指導でめきめき頭角を現してきた。

一方橘は高齢の為仕事を貴の会社金田商事に回して無理をせず身体を労わっていた。

上野駅近くの貴が相続した土地は都市計画の一角に含まれていたが、開発が遅れていた。

その理由は計画図の中に地権者が解らず、工事引き伸ばし状態だったが国が地権者となって工事が行われる事になった。貴の土地半分百五十坪は都市計画地図内、残りの百坪は金田商事が貸しビルを建てる計画を進めていた。

 貴が橘の事務所練馬から、上野の貸しビルに移転してから数年の年月が過ぎた。

貸しビルの一階二階は店舗付き住宅で三階から五階はアパートである。

金田商事は一階に事務所二階は住居を構えて事業を拡大していった。

社員も宅建取引、司法、税務に詳しい営業マン三名を増やし本格的に事業に力を注いで営業成績はうなぎ登りにあがって行った。

ある日、橘から面白い物件が有るから来ないかと電話があった。

貴は橘にご無沙汰していたので伺う事にして練馬に向かう途中、何の話だろうと、いろいろ想像している内に懐かしい橘の家に着いた、生まれ育った我が家のような気持ちで玄関の呼び鈴のボタンを押した。

ドアーの向こうからどうぞと覚えのある声がした、懐かしい親父さんの音声だった。

勝手知る、我が家のように入っていった。

「お邪魔します、ご無沙汰していて申し訳御座いません」の挨拶に橘は貴君も成長した事を悟るのであった。

「早速だが、電話した話の物件はこれだ」と出された書類にははっきりと練馬安田邸と書いてあった。

                    つづく