金の卵 連続ブログ小説 №23

金の卵 連続ブログ小説 №23

 

大根を抱えてリヤカーに運ぶ時転んで大根が折れた時「けがは無かったか」と聞いてくれた「どうもないよ」と言うと良かった良かったときづかってくれた。

そんな、子供の頃を思い出すと頭を上げて今の小父さんの顔を見ることが出来ない。

土地成金と言われて人間が代わったお金が変えたのだと思った。

貴は帰ろうと思うが声が出ないので挨拶もできず、俯いたまま会釈して家を出た。

「貴さん待って」と玄関に出る後から父の大きな声が聞こえた。

「礼子戻って来い」

貴の座っていた畳は涙で色が変わっていた。

 貴は何処をどう歩いたか気が着くと居酒屋でコップ酒を飲んで寂しさを紛らわしていたが、店主にその位にしたらと諭され帰る事にした。

明日二十歳になる今夜が最後の十代である、初めて飲んだ酒、何故か酔いは回らなかった。

しかし、歩いている内に酔いが回ってきて歩くのが大変ながら家まで帰って来た。

家は、孤児院から引き取ってくれて、我が子のように育てくれた橘商事の社長橘大造

の事務所件自宅である。

家に入ると事務所に社長が居た。

「ただいま帰りました」

呂律の回らないお帰りの挨拶をしてロビーにうずくまって泣き出した。

そんな様子に社長が出て来て貴に一括した。

「男の癖に何をめそめそしている、女にでも振られたかそれとも両親が恋しくなったか」

大きな声に貴は我にかえったつもりだが、酔いからは醒めてはいないのであつた。

「うるさい親父俺だって泣きたい事ぐらいある」

「何だと、生意気な事言って、橘は貴の胸倉を掴んで拳で殴りつけた、貴はロビーの隅まで飛ばされた。

「痛いよう」と言いながら頬を手で押さえて静かになった。

橘は自分の息子二人を戦争で亡くしている、貴を我が子のように育てた積もりだったので

悪い事は悪いと愛の鞭を振り回して育ってきた、それに答えて貴は自分が悪いときづき素直に反省して橘に感謝していた。

感謝されている橘は貴の寝ている板の間の傍で独り言を言い出した。

貴厳しくして悪かったな、我が子の変わりに立派な人間になって欲しくって暴力をふるった、許してくれよ、今夜が最後の鞭、決して明日から鞭は振らない約束する、良く辛抱をしてくれたなと、貴に向かって頭をさげた。

貴は酔っていたが神経は逆立ち眠れない橘の話を聞いて嬉し涙が止まらなかった。

先ほど涙を出したのに、悲しい涙と嬉しい涙は溜めてある所が違うのだと思っていた。

貴風邪を引くといけないから部屋で寝なさいと肩を貸してくれた。寝たふりをして部屋まで連れて貰った。

「貴まだ泣いているのか」と優しい声を掛けて部屋を出て行った。

貴は思いっきり大きな声を出して泣きたかった。

                    つづく