金の卵 連続ブログ小説 №22

金の卵 連続ブログ小説 №22

 

礼子の家は農家で主に練馬大根の生産に力を入れていたが、都市開発で住宅団地造営の為

畑を手放す事になった。

百姓から畑を取り上げたら丘にあがった河童である。

そこで、郊外に畑を買い転居する事になったと書いてあった。

貴は早速返事を書いてポストに入れた。

数日たって礼子から返事が来た、そして文通が始まり恋心が芽生えていった。礼子の転居先は暫らくすると、住宅団地造営で手放す事になった。

もう、百姓は年だしやめる事にして自分の住む宅地三百坪を残して売り渡した。運良く、土地も高く売れて土地成金と近所の人に羨ましがられた。

金持ちに成った安田家は二度土地売買の世話をしてくれた不動産屋さんの紹介で石神井と葉山に中古家屋を購入した。

安田家は不動産屋の息子専務さんを礼子の婿にと話しを進めていた事など礼子は知らなかった。

貴は二十歳を前にして礼子の家に行き結婚を前提に交際させて下さいと懇願したが、断られた。

礼子を前にして父がはっきり断った事に貴は不信を抱き、礼子を見詰めた。

礼子は父を見詰めて、

「なんで、礼子の気持も聞かないでそんな事言うの」

「お前の事は父さんが決める、それが一番幸せなのだ」

「そんな事無いは、礼子は二十歳過ぎた勝手に決めないでよ」

親子の会話は次第に感情が剥き出しになってきた。

そして、貴は震撼する言葉を浴びせられた。

「何で、お付き合いしたら駄目なの、教えて、礼子には解らないわ」

「何処の馬の骨だか解らない奴に礼子を嫁にやれるか」

その言葉に、貴と礼子は暫らく言葉を失い沈黙の時が過ぎた。

正座して手の平をハの字に俯いていた手が何時しか拳に変わっている、全身が振るえて顔面から血の気が引いた、震える身体を支える拳と拳の間に涙が滴り落ちた。

罵声も勿論悔しいが、それより小父さんの変わり様に驚いた。

優しかった小父さん、大根畑の畑道の土手に鍬を傍らに置き煙管でタバコを吸っている姿、日に焼けた顔に真っ白な歯を見せる笑顔が脳裏に焼け付いている。

近所の大人達は子供に貴ちゃんと遊んではいけないと言い含めていた。

孤児院生と言うだけでどれ程の差別に遭ったか数え切れなかった。

しかし、小父さんは礼子と同じ様に遊ばせてくれて、畑仕事も手伝わせてくれた。

                     つづく