金の卵 連続ブログ小説 №16
金の卵 連続ブログ小説 №16
麗子の住む安アパートに毎日見舞いに来てくれていろいろ面倒を見てくれていた。
ある日男性は元気になったら一度俺の家に遊びに来てくれないかと言う。
「元気になったらぜひ、お伺いさせて頂きます」と笑顔で答えたが麗子は男性の名前は「たかし」と聞いただけで名字は聞いてなかった。
「たかし」と言う人は何者か解らないが、麗子にとっては優しい親切な人であり警戒心が薄れていた、女体を求める訳も無く指一本も触れない「たかし」に不安もあった。
麗子を自殺に追い込んだのは男性問題もあるが、ここ数年の間に両親と妹二人亡くなり、
悲しみと孤独感に悩み自暴自棄になっていたのが原因だった。
ある日「たかし」がアパートに来て今日俺の家に来ないかと言い出した。
「いいけど」と答えた。
何時来ても「たかし」の誘いに答えられるように化粧だけは欠かさなかった。
素顔は病院で見られたが元気になってから素顔は見せたことは何故か無かった。
麗子のアパートが有る練馬からタクシーに乗り「たかし」の家、石神井公園迄、余り時間は掛からなかった。
車から降りて石神井公園の池畔を歩くと、白色に塗られた鉄製の門扉の前まで来ると、門扉を開けながら此処が俺の家だと振り返って微笑んだ。鉄製の門扉に鉄製の「金田貴」の表札が掛かっていた。
麗子は初めて「かねだたかし」のフルネームを知るのであった。
家の作りは洋式で大きな玄関のドアーを開け中に入り、応接間に案内されるまま入る。
外を見ると庭の芝生と石神井公園池の太鼓橋を借景に落ち着いた雰囲気が漂っていた。
暫らくすると、玄関が開き、人のけはいがし、応接間のドアーが開き年のころなら五十歳前後の女性が入ってきた。
「旦那様只今帰りました。言い付けどおりの買い物をして参りました」と、丁寧な言葉使い奥様では無いと麗子は思ったが、貴に聞く事もできず、もじもじしていると貴の方から今の人は家政婦で俺が石神井に来るときだけ電話で連絡して身の回りを面倒見てくれている人で普段は掃除や家の空気の入れ替えに来てくれているとの説明をしてくれた。
麗子は真面目な顔をして声を震わせながら聞きだした。
「石神井はときどき来るのですか、では、何時もは何処にお住まいなのですか」貴は微笑みながら答えた。
「何時もは自宅と事務所が一緒なので其処で寝起きしている、ここは別荘です」
その言葉に麗子は不安が過ぎった。
金田貴の名も知らず、事務所も知らず、仕事も知らず、何故此処に居るのか解らなくなって来ていた。
つづく