金の卵 連続ブログ小説 №2

金の卵 連続ブログ小説 №2

昭和二十九年四月五日集団就職列車第一号が、金の卵を乗せて故郷を後にする。

駅のホームには老若男女が大勢集まって列車の到着を待っている。

皆の視線は稜線でできた山間に雪渓が見える山の方角である。そこに登坂を黒煙出しながら蒸気機関車が走って来るのである。「来た」と誰かが大きな声で叫んだ。皆の視線が一点に集中した。黒い塊が出す黒煙が雪渓を覆いながら近づいて来る。

線路は山沿いに左カーブしているので、列車の側面が機関車から最後部の客車迄見える情景はこれから乗車する少年少女達の脳裏に故郷を焼き付けた。

列車は水蒸気と騒音を出しながら、手入れの行き届いた漆黒の蒸気機関車を先頭にホームに滑り込んだ。蒸気機関車を初めて近くで見た幼児達は母親の太ももにしがみ付き今にも泣き出しそうな表情で蒸気機関車を横目で見ていた。

列車が止まると子供たちは静かに乗り込んだ、寂しそうに肩を落としている者、元気に乗り込む者様々であった。修学旅行の楽しそうな話声や浮足だって乗り込む者はいなかった。

プラットフォームの高さよりはみ出た機関車の動輪が蒸気によって静かに回りだした。

プラットフォームを静かに離れていく列車に子供達が走り出した。ホームで手を振る見送りの人々、ホームから笑顔で手を振る子、片手で手を振り片手で涙を拭う者様々である。ホームでは見送りの母に抱っこされた幼児のりんごの様な頬に涙が流れていた。